今回は、IPOとM&Aをテーマに、チェンジホールディングス代表取締役の福留氏のJapanstockchannel出演の動画を掲載いたします。
創業期の「好き放題」から「真面目な経営」へ
福留氏がチェンジホールディングスを創業したのは2003年。上場を果たすまでの期間は、福留氏自身が「好き放題やってた」と振り返るほど、自由な発想で多岐にわたる事業を展開していました。インドで居酒屋やクレープ屋を経営したり、シンガポールでマイス事業、インドネシア・バリ島でサーフィン事業、中国で旅行事業など、国内外で様々な分野に挑戦していたと言います。
そんなチェンジホールディングスが東京証券取引所に上場を果たしたのは2016年9月。公開時の時価総額は37億円という、いわゆる「スモール上場」でした。しかし、そこからの成長は驚異的です。上場から約10年が経過し、時価総額は一時4000億円に達し、現在は1000億円を超えています。直近の業績予想では、売上456億円、営業利益130億円と、上場時の営業利益1.3億円から実に100倍を超える成長を遂げています。
この目覚ましい成長の背景には何があったのでしょうか。福留さんはその大きなきっかけとして「IPOを目指したこと」を挙げます。それまで好きなことを追求する経営だったものを、「真面目に経営する」という決断をしたのが2012年〜2013年頃だったと言います。政治家になるか企業家としてビジネスを続けるかという岐路に立ち、企業家としての道を選んだ福留さんは、「よし、これはもうIPOして、ちゃんと会社やる。ちゃんとビジネスやる。自分の志とか、世の中に対するインパクトでビジネスをやる。真面目にやるって決めて、これIPO」と、会社として、そして経営者として覚悟を決めたと語ります。
IPO準備期間は、文字通り「ものすごいルールを作り、ものすごいルールを守らせ、そして一生懸命型通りに経営する」日々だったそうです。特に準備期間は、取締役会の開催など、上場企業に求められる厳格な統制を組織に浸透させることに注力しました。「一生懸命統制を取りながらやってましたね」と、当時の苦労を滲ませます。
上場がもたらした「信用力」と経営者の「大人」への進化
IPO後の変化について、福留氏は会社軸、経営者軸、そしてプライベート軸の3つの側面からその影響を語ってくれました。
まず会社軸では、上場による「信用力」の向上が最も大きな変化だったと言います。ビジネスの出発点である資金調達の幅が格段に広がったことはもちろん、営業活動における信頼性や優秀な人材採用においても、上場企業であるというステータスが非常に有利に働いたとのことです。「本当に会社にとってIPOというのは極めて良い選択だなというふうに思います」と、その効果を強く実感されているようでした。ビジネスはバランスシートから始まり、資金調達、資産化、回転、売上・利益という流れを考えると、調達の幅が広がることは成長の大きな武器となります。実際に、上場後の資金調達が、M&Aなどを通じた非連続な成長に繋がったと分析しています。
経営者としての変化も非常に大きいものでした。IPO前は「好きで得意で儲かること」のうち、好きなことばかりを優先していた時期もあったそうですが、上場後は「好きで得意で儲かること」の3つの輪が交差するところしかやらない、と明確な判断軸を持つようになりました。「得意か」「儲かるか」を常に問い、事業の意思決定においては合理性を重視するようになったと言います。上場していなければ、たとえ130億円の利益が出ても全て使ってしまうようなこともあり得たが、上場後は意思決定が非常にリーズナブルになったと語ります。「大胆にこうなんて言うんですかね、要は貼るとか書けるとかそんなことしなくなるんですよ。やっぱりあくまで合理的に説明つくかっていうことをすごく意識するんで」。
福留さんはこの変化を「ある種経営者として大人になった」と表現します。「前が幼稚園児だったとすると今多分中学生か高校生ぐらいには成長した感じがします」と謙遜されますが、上場企業としての作法やステークホルダーに対する責任、守るべきルールを実践する中で、経営者としての軸や判断スピード、物事を考えていく思考力が圧倒的に向上したと感じているそうです。上場しなかった場合の自分と比べると、その能力差は「100倍くらい」あると断言されており、IPOが経営者としての成長を大きく加速させたことが伺えます。
億万長者が見つけた「お金」の本当の価値
そして、多くの人が気になるであろう、上場企業経営者のプライベートについて。上場によってお金持ちになれるのか、という問いに対して、福留さんは「お金持ちには絶対なれますよね」と明言しました。ストックオプションの行使や大株主への売却などを通じて現金を手にし、「小さい頃に思ってた億万長者にはなりますよね」と語ります。具体的な金額についても言及があり、億単位の現金を手にされているとのことでした。
そんな福留さんが、上場後に個人単独で購入した最も高価な買い物は「ヘリコプター」でした。意外なことに、ご自身が乗ったのは数回程度だと言います。では、一体何のためにヘリコプターを購入したのでしょうか。
その答えは、福留さんがお金持ちになって一番幸せを感じる時、つまり「自分のお金がめちゃくちゃ人の役に立ってる」時にあります。購入したヘリコプターは、日頃は離島の医療支援やドクターヘリとして活用され、去年の能登半島地震の際には、地震発生翌朝には被災地での救助活動に投入されたそうです。さらに、仲間と共同で購入した災害医療支援船も所有しており、こちらも人命救助に活用されています。写真で見せてもらったというその船は、「宇宙戦艦ヤマトぐらいでかい」と表現されるほどの規模元々公務員の家庭で育ち、特別裕福ではなかったという福留さんにとって、多額のお金は自己のために贅沢に消費するものではなく、社会貢献や人助けのために活かすことで真価を発揮するものなのです。
「自分で消費するのってやっぱり限界があって」としつつ、元々が庶民であるため、何億円もお金があっても使うことはほとんどないと言います。しかし、ヘリコプターや災害医療支援船のように、自分のお金が人命を救う現場で役立っている光景をニュースなどで目にする時が、最も幸せを感じる瞬間だと語ります。「なんか俺いいことしてんな」という自己満足もあるとしつつも、その根底には強い社会貢献の志があることが感じられました。
市場の「期待」が後押しした驚異的な成長
チェンジホールディングスは、時価総額37億円で上場した後、上場来最高値で4567億円を記録しました。この驚異的な成長の要因について、福留さんは「市場にいらっしゃる個人投資家、機関投資家の皆さんにとても期待してもらった」ことが一番大きいと述べます。そして、その期待の根拠となったのが、上場時の1億円程度の利益からわずか4年後の2020年時点で30~40倍まで利益を成長させた、当時の急成長カーブでした。
福留氏の「真面目な経営」への転換、IPOによる信用力向上と合理的な意思決定、そして資金調達力を活かした大型M&A戦略。これらが有機的に結びつき、チェンジホールディングスは上場後わずか数年で時価総額を飛躍的に拡大させました。そして、そこで得た経営者としての成功や富を、単なる私利私欲に終わらせず、社会貢献へと繋げる福留氏の姿勢は、多くの起業家や経営者にとって示唆に富むものでしょう。
上場から約10年を経て、さらなる成長を目指すチェンジホールディングスと、そのリーダーである福留氏の今後の動向に注目が集まります。