AI時代にバックオフィス人材と企業はどう変わるか—スタートアップ経営者769名調査ー

統合型BPaaS「SYNUPS BackOffice」を展開するWewillと、統合型クラウド会計ソフトを提供するフリーが、「令和のスタートアップガバナンスとバックオフィスにおける統合型BPaaSの必要性」をテーマにラウンドテーブルを開催した。

■ 約6割が「コストセンター」、でも投資は3割

Wewill代表取締役社長・杉浦直樹氏は、スタートアップ経営者769名を対象とした調査結果を共有した。

調査によると、約6割の経営者がバックオフィスを「コストセンター」と認識する一方、約5割が企業成長への寄与を評価している。しかし、実際に投資コストを割いている企業は約3割にとどまった。

具体的な課題としては「業務の非効率」「専門性の不足」が多く挙げられた。杉浦氏は、こうした現状が「バックオフィスではキャリア形成が難しい」という社会的イメージにもつながっていると指摘した。

■ 「一人バックオフィス」が成長のボトルネックに

フリー会計BPaaS事業部 部長・小野氏、フリー Midmarket事業部 事業部長・田中氏からは企業の成長ステージごとの課題が共有された。

創業期では、バックオフィス構築が管理面に強い創業メンバーや「一人バックオフィス」担当者など、個人の能力に依存しがちだという。その結果、属人化やブラックボックス化を招き、企業成長のボトルネックとなるケースが多い。

IPOを見据えたn-3(ショートレビュー)突入後の段階では、法的整理やガバナンス体制の構築が求められる一方、オペレーショナル・エクセレンス(業務を常に適正に実行できる仕組みづくり)が確立できていない点が課題として挙げられた。

■ freee統合型ERPが実現する「段階的な統制環境」

田中氏は、これらの課題への解決策としてfreeeの統合型ERPの設計思想を紹介した。

同システムは「スターター」「スタンダード」「アドバンス」「エンタープライズ」という段階的なプラン構成を採用。企業の成長に応じてシステム移行なく利用を継続でき、初期段階から必要最低限の統制を確保しつつ、統制環境を段階的に育てられる構造となっている。

また、freee人事労務の組織情報がワークフローエンジンに統合されるなど、各機能が密接に連携している点も強みとして紹介された。

■ 「誰が標準化を進めるのか」

杉浦氏からは、統合型BPaaS事業者としての本質的な課題が提起された。

「誰が将来にシームレスにつながるバックオフィス構築を担うのか」「誰がその標準化を進めるのか」——この2点を最大の課題として挙げた杉浦氏は、最新のSaaSを導入していても非効率な業務設計やSaaS間のデータ不整合が多く見られる現状を指摘。SaaSベンダーと統合型BPaaS事業者が連携し、「標準的なバックオフィスとは何か」を再定義していく必要性を強調した。

■ 事務職は「ナレッジワーカー」になれるか?

小野氏は、AI化・自動化が進む中でも業務のラストワンマイルを担う人の役割は当面不可欠であり、BPaaSとの組み合わせによる業務最適化の重要性を強調した。2025年版中小企業白書で示された「ガバナンス」「スケールアップ」という方向性を踏まえ、企業の成長を支える基盤としてのバックオフィス強化が必要だと述べた。

田中氏は中小中堅企業におけるガバナンス構築と権限移譲の重要性を指摘。「経営の透明性こそ、人が集まる企業をつくる」とし、IPOフェーズで培った知見をもとにガバナンス水準の標準化を進めることが社会貢献につながるとコメントした。

杉浦氏はバックオフィス人材のキャリア形成に言及し、AI時代において事務職を「アドバンストエッセンシャルワーカー」や「ナレッジワーカー」へ転換していく必要性を提起。フリー側からも、スキル開発と業務標準化を両立するスキルマネジメントの仕組みづくりが重要との見解が示され、統合型BPaaSとSaaSによる新たな人材価値創出への期待が語られた。